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久蔵菊雄メモリアルコンサートレヴュー
公演情報、他 > [終了] 久蔵菊雄メモリアルコンサート
2009年7月11日、昨年逝去した三響フルート創立者のひとり・久蔵菊雄氏の追悼コンサートがトッパンホールにて開催され、三響フルートに縁の深いフルーティストらが一同に会し、久蔵氏への思いをフルートに込めた。
久蔵菊雄メモリアルコンサート
久蔵菊雄メモリアルコンサート(2009年7月11日、文京区・トッパンホールにて)。
開演前、手元に配られたプログラムには、佐久間由美子氏、ジャン=クロード・ジェラール氏、クリスチャンヌ・マリオン氏(アラン・マリオン氏夫人)らをはじめとするフルート奏者や楽器製作者の方々から久蔵氏との思い出を綴った言葉が寄せられており、会場に集まった方々は皆静かにページをめくりながら、久蔵氏がどれほど尊いものを私たちに残してくださったのか、改めて実感せずにはいられないようだった。
コンサートはムジカ・クオーレ フルートアンサンブルの奏楽『マタイ受難曲』で厳かに幕を開け、多久潤一朗氏、宮本明恭氏、佐久間由美子氏それぞれによるフルート独奏、その後、三響フルートアンサンブル、ムジカ・クオーレ フルートアンサンブルの演奏へと続き、最後は総勢58名の久蔵菊雄メモリアル・フルートオーケストラによる圧巻のステージで締めくくられ、会場を埋め尽くした満員の聴衆たちは、まるでその場の時間が止まってしまったかと錯覚させられるほどに、最後までじっと聴き入っていた。
***
後日、このコンサートで自作曲「独奏フルートのための《虹》」を披露した多久潤一朗氏にお会いし、お話を聞くことができましたので、下にご紹介させていただきます。
久蔵菊雄メモリアルコンサート
多久潤一朗氏
先日はお疲れさまでした。三響フルートの創始者のおひとりである久蔵氏を追悼するために集まったあの豪華な顔ぶれの中でのトップバッター、それも自作曲を演奏されるのは、大きなやりがいとともに相当なプレッシャーも感じられたのではないでしょうか。「独奏フルートのための《虹》」にはどのような思いが込められていて、あのときどのような気持ちでステージに立たれていたのか、お聞かせいただけますか?
久蔵菊雄メモリアルコンサート
多久潤一朗氏によるステージ。久蔵氏への思いを自作曲「独奏フルートのための《虹》」に込め、美しく歌いあげた。
「はい。久蔵菊雄メモリアルコンサートへの出演は、このコンサートの実行委員会の代表者でいらっしゃった播博先生と宮本明恭先生からお声をかけていただいたんです。久蔵会長が僕のことを知ってくださったのは、4年程前、僕がリコーダーの頭部管とフルートの胴体を繋ぐための連結部の製作をお願いしたことがきっかけだったと思います。久蔵会長は、快く、楽しんで応じてくださったんです。その後、札幌でのフルートフェスティバルで直接お会いすることができ、僕がリコーダーとフルートを繋げて吹く以外にもっといろいろなことができる笛吹きであることを今度お見せします、とお話したことが、久蔵会長との最後の会話になってしまいました。ですから今回のコンサートでこのような場をいただけたことは、僕にとって、久蔵会長との約束を果たせる本当に幸運なチャンスでした。」
まさに《虹》というタイトルにも象徴されるように、人々の心に美しい残像を残してくれるような音楽だなぁ、と思いながら聴かせていただきました。そしてそれが久蔵氏のイメージとも重なって…
「今回の曲は、久蔵会長への追悼の思いを込めて、会長の存在と虹のイメージを重ね合わせて書いたんです。虹って、朧気じゃないですか。目に見えないようでいて、でも見えて、美しくて…。しっかりとは捉えられないんだけど、皆の心に残っていて、どこかにパッと現れることができる。久蔵会長も、目には見えない存在となってしまわれましたが、虹のように、僕たちの心にパッと現れて美しい彩りを残してくださる…。そんなことを感じて、虹というタイトルで書けたらいいなぁと思ったんです。」
その思いはきっと、久蔵氏にも届いていると思います。多久さんのステージは、ちょうど虹が出るときのような幻想的な空気が、さっと吹き抜けていった、そんな感覚を覚えるステージでした。「とても綺麗な曲だった」という印象を持たれた方が多かったようですね。
「そうなんですよ。今回、『現代音楽なのに聴きやすかったです。』っていう意見をわりと多くいただいたんです。だけど僕自身は、これは現代音楽というより普通の曲だと思ってるんですよ。特殊奏法=現代音楽って思われちゃうんでしょうか?」
私は "現代に生きている人が作って奏でる音楽" という意味で、よく "現代音楽" という言葉を使ってしまうのだけれど…。たしかにいわゆる "現代音楽" と呼ばれる音楽の中には、大胆な楽器の用法とか奇抜な語法といったものに目を奪われすぎて全体を感じにくかったり、そういったものをどう受け入れたらよいのかわからなくなってしまうようなもの、つまり難解だと感じてしまうものが少なくないからかもしれませんね。でも、今回聴いた《虹》は、聴いたのがコンサートホールだったということも影響しているかもしれないけれど、聴覚的ヴィジョンとでも言うべきものを生み出していた音の組み合わせが私の耳にはとても心地良く響いて、全体像も掴みやすかった。だけど、コンサートの数日前にお会いしたとき少し吹いてくださったでしょ。目の前だったら視覚的にも聴覚的にも面白いことをいっぱいやっているのがよくわかるのに、それがコンサートホールではどうしても遠くまで伝わりきらなくて、もったいないところがあったのではないかと…。
「うんうん、そうなんです。特殊奏法はやっぱり、広いところだとなかなか伝わりにくいですね。けっこう命がけ(笑)」
なので今日はその辺りを、実演を交えながら少しお話いただけたら、と思っています。
久蔵菊雄メモリアルコンサート
『虹』に散りばめられた数々の技法
多久氏が「数々のアイディアを産んだ久蔵氏の柔軟なひらめきに習い、七色の新しい響きを創るべく作曲」したという《虹》は、七色の虹になぞらえ大きく7つの色(部分)から成っている。様々な特殊奏法を駆使しながらも、それらがふんわりと絡みながら微妙な色合いの違いを描き出していく、甘やかな香りのする音楽だ。だが、それを構成している多彩な個々の音は、どうやって作り出されていたのだろう?
多久潤一朗氏
「技法的には、パーンとしたクリアな音ではなくポワ〜ンとした響きの出る重音の奏法と、アーチを描くような音型を中心に、朧気な虹というものを表現しようとしたんです。だから、途切れているところはあまりない。そういうぼやーっとした音とか、ポワンポワンっていう音とか、アーチ状の音型とかを入れておいたら、もしかしたらテーマが虹であるということに漠然とでも気づいていただけるかなぁと思って…。」
具体的に奏法の説明などもお願いできますか?
多久潤一朗氏
「はい。では目立ったところから。まず、冒頭からFとGの重音が出てくるわけですが、重音奏法って、案外簡単な仕組みなんです。このFとGの重音は、上のGをCのハーモニクスで出しながら、Fの音が出る穴を半分開けてあげると、ほら、こんなホゲーッという感じで重音が鳴る。」
「この原理がわかればあとは自由に音の組み合わせができるので、とてもおいしい奏法だと思います。実はハンガリーにイッツシュ(Gergely Ittzes)というフルーティストがいて、その人が出している楽譜の中に重音表があるんです。それがすごく見やすくて、その表のことを教えていただいたときはもう夢のようで、夢中ですべて、鳴るか鳴らないかを色分けして、今回もその表をしっかり活用しました。」
久蔵菊雄メモリアルコンサート
「次は、ここかな。ここではポンポンポンッと泡が弾けるような感じを出したかったから、スラップタンギングをすごく軽く小さな音で、ピツィカートのように用いています。あからさまに特殊奏法をやっていますという感じじゃなくて、さり気なく使ってたら耳なじみもいいかなと思って。」
いつもいろいろな面白いことを披露してくださるから、曲を作るときはある程度特殊奏法などの素材を優先していらっしゃるのかと思ったけど、まず先にイメージがしっかりあって、そのイメージに近い音を出すために奏法を探していく感じ?
「はい。僕はいつも、初めにイメージありきです。それでここは、自分では同度トリルと呼んでいるんですけど、同じ音(同度の音)を、運指を換えて交互に吹くと、ソソソ…というように微妙に異なる音色が得られる。カラートリルとも言います。」
多久潤一朗氏
「こういう音をうまく使ってちょっと不思議な濁った響きを作ったり、微分音を取り入れてみたり…、けっこうネタの宝庫ですよ。」
多久潤一朗氏
「それからここは重音にヴォイスをつけていて、差音というのを発生させるんですけど、声をヒューンって下げるとポワーンって上がっていく音が得られるんです。このポワーンっていうのを大きく出したかったんですけど、ホールだと全然響かなかった。」
久蔵菊雄メモリアルコンサート
「それからこっちは普通のタングラム(歌口のカットの縁辺りに舌を突っ込む感じにするとボンッという低めの音が鳴る奏法)を使ってるんですけど、それ以外に今回タングラムを使ってオリジナルで発明したのは、この、タングラム+人力エコーです。見た目もおいしいし、ポワッポワッポワッポワッて、こんな感じの効果を狙おうと思ったんです。ちょっと泡みたいでしょ?」
多久潤一朗氏
こんなに面白いエコーを必死でかけられていたんですね。客席の後ろの方だったので、ここの音のニュアンスは耳からよりもむしろ目から感じ取ることができました。
「そう、遠くまでなかなか音が届かないんですよ。だから特殊奏法って本当に命がけ。ブレスノイズとかはすごく飛ぶんですけど、こういう打系の音、スラップとかも、全然飛ばないんですよね。あとは、そんなに斬新というわけではないんですけど、一番派手なことやってるのはこのPrestoの、CとかEsといったベースの音を声でヴーッと出しながら、上はハーモニクスで細かく動いてるところかな。こっちはどうでしたか?」
ベースの声はよく聴こえてきたんだけど、上がどんなことをやってるのかわかりづらかった。
「そうそう、上が全然できないんですよ…。声とフルートのバランスって難しいんですよね、息の出口が同じだから。フルートの音を大きくしようとしたら、声も大きくなっちゃいますからね。だからこのバランスの問題は今後の課題!! 《虹》で使っている技法は、だいたいこんな感じです。これだけネタが詰まっている《虹》!! コンクールの課題曲にいかがでしょうか?(笑) フルーティストが書いたフルート曲なのでけっこう吹きやすいと思いますし、特殊奏法は一見奇抜に思えても、一度『あぁ、こういう音も出せるんだ。けっこう使えるんだ。』って思っちゃえば、案外あとは簡単ですからね。」
多久潤一朗氏
たしかにそのうち、こういう曲が課題曲の中に1曲くらい入っていても、おかしくはないかも…。でも、これは多久さんの専売特許なのでは? そしてこういった音楽に、演奏者はもとより、どれだけの聴衆にどこまでついてきてほしいと望んでいらっしゃいますか??
「あ、コンクールの課題曲になったら、みんな吹けるようになっちゃいますね。僕はどうしよう…。いや、その頃にはもっとすごいものを書くようになっていたいです(笑)!! やっぱり聴衆には、珍味を食わせたいですね。難解であるものをさり気なく『何だかよくわからないけど、すごく面白かった。』と思わせて、実は裏ネタがすごくいっぱい詰まっている、という風になりたいんです。それを目標にいま活動しているもののひとつが "マグナムトリオ" なんですけど、入り口をとことん面白く、でもやってることはすごくマニアック、ということをひたすら追求して、いろんなイヴェントを開催しています。皆様、是非、いらしてください。」
久蔵菊雄メモリアルコンサート
多久潤一朗氏による「独奏フルートのための《虹》」の演奏をお聴きください。
久蔵菊雄メモリアルコンサート
上述した他にも、楽器へのこだわりや、現代音楽や特殊奏法などに興味を持ち始めた頃のこと、現在はトルコやブルガリアの音楽に特に興味があり、それらが持つ独特の揺れや微妙な味わいがもたらす複雑な喜びといったものに魅力を感じていることなどなど、実に様々なお話を聞かせていただきました。さらに、
久蔵菊雄メモリアルコンサート
「最近フルートで、尺八の音が出る運指というのを模索してるんです。尺八はこの辺とこの辺にしか穴が開いてないから…」と言ってフルートのトーンホールを器用にふさぎ、尺八さながらの音を奏でて驚かせてくださったり、フルートの頭部管、胴部管、足部管それぞれで音を出したり、鼻で吹いてみたり、また、フルート・バッグのポケットから "びっくりウエポン" (例のリコーダーの頭部管など)を取り出し様々な合体ネタを披露してくださるなど話題は尽きず、ここですべてをご紹介できないのが本当に残念ですが、百聞は一見・一聴に如かず!! 多久氏が所属する "マグナムトリオ" が、「第14回 日本フルートコンヴェンション 2009」の三響フルート・ショーケースをはじめ、各地で公演を予定しています。ぜひ、多久氏が彼のフルートで調理する珍味を、生で味わってみてください。
◆マグナムトリオLIVE! 2009年度ツアー開催
詳細はこちらをご覧ください。
http://ameblo.jp/magnumtrio/
◆多久潤一朗氏プロフィール
無数のオリジナル奏法と独自の発想で従来のコンサートのイメージを一新させるパフォーマンスを行う。現代音楽や民族音楽のアイディアをポップにアレンジする事を得意とし、自作のフルート協奏曲は日本各地のフルートフェスティバルにて演奏されている。
東京藝術大学卒業。木ノ脇道元、金昌国、佐久間由美子、竹澤栄祐に師事。マグナムトリオ、現代音楽アンサンブル Ensemble Bois、Ensemble contemporary α、NOZZLES、にじいろクインテットのメンバー。サンキョウフルート工房講師。
2009.07.20
撮影:山瀬剛志/取材・文:近藤香織
※このページ上の掲載文章・画像・写真等の無断複製、無断転載はご遠慮ください。
アルソ出版発行の雑誌『THE FLUTE』の99号、100号にも、「久蔵菊雄メモリアルコンサート」が紹介されています。また、101号にも、このコンサートの記事が掲載される予定だそうです。

詳細は、アルソ出版 Website をご覧ください。
http://www.alsoj.com/flute/
久蔵菊雄メモリアルコンサート
昨年逝去した、三響フルート創立者の1人・久蔵菊雄氏を悼み、2009年7月11日(土)に追悼コンサートを開催することとなりました。
[出演]
 ソロ演奏:多久潤一朗、宮本明恭、佐久間由美子
 三響フルートアンサンブル
 ムジカ・クオーレ フルートアンサンブル
 久蔵菊雄メモリアル・フルートオーケストラ
 指揮:宮本明恭
[曲目]
多久潤一朗 : 独奏フルートのための「虹」(初演)
J.S.バッハ : サラバンドとガボット(無伴奏チェロ組曲 No.5より)
S.カルク=エラート : ソナタ「アパッショナータ」嬰ヘ短調 Op.140
J.S.バッハ : 小フーガ ト短調 BWV578
J.S.バッハ : 主よ、人の望みの喜びよ BWV147
W.A.モーツァルト : 交響曲 第25番 ト短調 K.183 第1楽章
G.ロッシーニ : ソナタ 第3番 第2楽章 アンダンテ
A.ドヴォルザーク : スラヴ舞曲 ホ短調 Op.72-2
J.S.バッハ : マタイ受難曲より「コラール」BWV244
日時 [終了] 2009年7月11日(土) 14:00開演
会場 トッパンホール
東京都文京区水道1-3-3
チケット 2,000円(全席自由・消費税込)
主催 久蔵菊雄メモリアルコンサート実行委員会
代表:宮本明恭、播博
協力 ザ・フルート編集部
協賛 アルソ出版
協賛 ミリオンコンサート協会

故・久蔵菊雄に代って皆様に感謝申し上げます。
今回故人の追悼演奏会を演奏家の方々が中心となり開催して頂けることになりましたことを心より嬉しく感じております。と言いますのも故人と私は55年に亘りひたすらフルートを作ることに専念してまいりました。特に三響フルート製作所を立ち上げてからは製作の時間の関係で演奏家の皆様とは短いおつき合いではなかったかと思います。それが今回大勢の方々に愛され、自分たちで作ったフルートの音による追悼演奏が聴けることは製作者としてこの上ない喜びと故人は感じ、天国でその日を待ち望んでいることと確信しております。
株式会社 三響フルート製作所
代表取締役 武井秀雄
三響フルートアンサンブル

石川知章、石田鋭洋、上原渉、大林茂、久保田和幸、神一司、萩伸子、原田淳、樋口省吾、福岡広、前島利彦、宮崎孝子、山田拓夢

ムジカ・クオーレ フルートアンサンブル

あびる牧子、居城麻里衣、上原由利子、小野寺舞子、金山聡、国田祥生、興梠由貴子、玉村三幸、中川朋、沼崎麻里子、芳賀文恵、秦洋一郎、藤原美沙季、宮川葉子、山田くに子

久蔵菊雄メモリアル・フルートオーケストラ

荒川洋、石橋正治、石渡真由美、内田有洸、内山貴博、落合朝子、勝俣敬二、桂綾子、片桐麻莉子、菅昭雄、菅宗次、北川森央、窪田直子、黒田聰、小池逸緒、齊藤佐智江、齋藤真由美、齋藤由香、佐藤珠実、坂上領、崎谷直、佐久間由美子、佐々木伸浩、佐々木親綱、榊原彩、佐野悦郎、鈴木理恵、多久潤一朗、鳥谷部良子、中川佳子、濤岡敬三、播博、富久田治彦、藤田佳子、藤原夕梨香、パヴェル・フォルティン、スタニスラフ・フィンダ、真壁実希、最上谷裕世、山下兼司、和田健二、古田土勝市
株式会社プリマ楽器